第51回日本SF大会 Varicon2012(ヴァリコン)

~第51回日本SF大会 Varicon2012~
       -The 51st Japan SF Convention-
開催日:2012年7月7日(土)~8日(日)
会 場:合宿の宿 ひまわり (北海道夕張市)
※本大会は「完全合宿制」です。


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 03 北海道SF大全 第二回 石黒達昌「人喰い病」(ハルキ文庫)


 北海道と言う土地の特徴のひとつとして、他の地域と大きく異なる特
異な生態系が挙げられる。豊かな自然は今や重要な観光資源でもある。
その一方で我々 素人は不思議に思わざるを得ない。北海道は寒冷な気候
を特徴としているのに、なぜこれほど豊かな自然が保たれているのか。
普通生態系は温暖なほど多様になり、寒冷地では貧弱になるはずだ。

 道の自然環境課がまとめた「北海道生物多様性保全計画」(※1)によ
ると、

「本道の生態系は、森林や湿原など大規模な景観を形成するものから都
市など人間活動に関わりが深いものまで様々です」

と指摘している。同計画は北海道の生態系を「高山、森林、湿原、河川・
湖沼、海岸・浅海域、農村、都市」の8地域に分類し、しかもそれらの
間をつなぐ「移行帯」が存在することによって、豊かな生態系が確立さ
れているとしている。人里離れた場所に隔絶した希少な生態系があると
いうより、湿原から大都市までの多様な環境がひとつながりにまとまっ
ていることによって独自の生態が保たれているという見立てだ。

 そしてこの多様性を促している要因にはもちろん北海道の地理的特徴
も大きい。同計画はこう分析する。

「北海道は、四方を海に囲まれていることから、地域によって沿岸域を
流れる海流の寒暖により気候が異なります。」

 周囲を寒流と暖流が入り乱れることによって気候は大きく変化する。
大きく分けると、北海道の気候は「裏日本型」「表日本型」「オホーツク
型」「太平洋側東部型」の4つになるのだという。
 つまり北海道の自然は冷涼であるにもかかわらず多様かつ複雑で、本
州以南の環境とは大きく異なっている。しかしながら未踏の地ではなく
内部に大都市も抱え、常に人と自然は接し続けている。それならば、そ
こでは本州以南とは異なる特異な現象も多々見られるに違いない。

 石黒達昌はそうした視線から作品を生み出し続けている作家だ。北海
道深川市の生まれの医師でもある。94年、特異な横書き小説「平成3
年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士並びに
…」(ベネッセ)によって芥川賞候補となり、SF界にも衝撃を与えた。
なぜなら本作品は桁外れに長命な架空の生物ハネネズミを主題とする架
空論文の形式を取り、生と死の本質に迫ったメタフィクションであった
からだ。しかも舞台は旭川市の神居古潭とされ、豊富な写真や図表が配
されていた。
 もちろん虚構であるが、あまりにも堂々と論文に擬態する態度に「北
海道ならこのようなネズミもいるのではないだろうか」と思ってしまっ
たものだ。もちろん北海道は著者の生まれ故郷ではあるのだろうが、理
由はそれだけではないだろう。石黒はあくまで、北海道を未踏の生態系
として描く。異様な筆致には引き込まれずにはいられなかった。

 確かに北海道の生態系には私たちには馴染みの薄い何かがある。それ
が非常に分かりやすい形で発現するのが「病」という現象だ。大変よく
知られた北海道を舞台とする「病」として、「エキノコックス」を挙げる
ことができるだろう。キツネと野鼠を媒介して感染する寄生虫病で、感
染後十数年を経て発病し、激烈な右わき腹の痛みや黄疸の症状を発する。
発症後の根治は大変で、外科手術も必要となる。北海道衛生研究所のH
Pはこのように指摘する。

「1964年以前は、北海道でエキノコックスの分布が知られていたのは道
北の礼文島だけでした。その後、1965年に道東の根室市で新たにエキノ
コックス症患者が確認され、その後の動物の調査などで、道東の10市町
村にエキノコックスが分布していることが分かりました。また、1983年
以降は道内各地で新たな分布地域が確認され、現在ではエキノコックス
は全道一円に分布しています。」(※2)

 その媒介の主役となったといわれているのがキタキツネである。北海
道のシンボルのひとつとして知られる愛らしい野生動物だが、こうした
グロテスクな一面も併せ持つ。北海道では多くの医療関係者や行政が「絶
対にキタキツネに触れないように」と繰り返し訴えているが、外部から
のハイカーがそれを守っているかは定かではない。事実、エキノコック
スは現在南下を続けており、じわじわと本州へ版図を広げている。

 医師でもある石黒には、当然こうした構図は見えていたはずである。
その後同系統のメタ論文「進化」(96)などを経て、「人喰い病」(20
00)を発表する。石黒のSF系作品の多くは北海道を舞台にしている
のだが、中でも今回本短編集に注目するのは、最もSFの伝統的スタイ
ルに近く、娯楽性の高い仕上がりとなっているからだ。日本SFを系統
だって復刊することに務めたハルキ文庫から刊行されたことが影響して
いるだろう。こうしたスタイルはその後ハヤカワJコレクションから刊
行された「冬至草」にも継承されている。

 「人喰い病」の巻末「作者自身によるごく短い解説」で石黒はこう述
べている。

「常々、『医者が病気を診断する過程は推理小説だ』と考えていて、なん
とかそれを形にしたかった」

 まさしく現役の医者にしてSF者でなければ思いつかないアイデアだ
ろう。収録された4本のうち、特に冒頭の2本はその傾向が強い。しか
もこの2本ははっきりと北海道を舞台にしたものでもある。どんな抗生
物質も通用しない不治の奇病「全身性皮膚潰瘍症」の恐怖とその治療法
をあくまで冷静に追いかける医師を追った「人喰い病」。そして低体温症
の女性と彼女の一族の謎を探った「雪女」。文体はあくまで平易で、だか
らこそ未知の病の恐怖と闘う医師の試行錯誤が非常に緊張感のあるサス
ペンスとして感じ取れるのである。そしてもちろん、その謎の病の背後
には広大な北海道の生態系が隠されており、その中にあえて分け入って
原因を突き止め解決策を探る医師の冷静な姿は、ほとんどハードボイル
ドですらあるといってよい。

 石黒達昌は難解な前衛作家なのだと思われがちだ。だが、実際にはき
わめて娯楽性の高い側面も持つ。そして前衛的なのに娯楽的なのではな
く、前衛的スタイルを保ちそれを娯楽的に用いてみせる軽妙さこそが石
黒の魅力なのではないだろうか。本書の後半の2本、「水蛇」と「蜂」の
舞台は不明でミステリ的娯楽性は薄れている。しかし、その不可思議な
生態系は北海道を強く連想させるし、不条理な現象を追う緊迫感は読み
手をひきつけずにはいない。
 興味深いことではあるが、あなたがSFファンであれば、石黒達昌は
きっととても読みやすく引き込まれる作家である。石黒自身はまったく
変わらず常に自分のスタイルを貫いているにもかかわらず。
(高槻 真樹)

脚注
※ 1 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/hokkaidotayousei.htm
※ 2 http://www.iph.pref.hokkaido.jp/Tokushu/Tokushu-Komoku/
echinococcosis/echi_index.htm


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