第51回日本SF大会 Varicon2012(ヴァリコン)

~第51回日本SF大会 Varicon2012~
       -The 51st Japan SF Convention-
開催日:2012年7月7日(土)~8日(日)
会 場:合宿の宿 ひまわり (北海道夕張市)
※本大会は「完全合宿制」です。


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北海道SF大全

 15 北海道SF大全 第八回 佐々木譲 『白い殺戮者』(徳間書店)


 SF評論賞チームは、今年、画期的な才能を持つ人物を仲間に得まし
た。小説の方でも賞を獲っていらっしゃる忍澤勉さんです。
 忍澤勉さんは、「『惑星ソラリス』理解のために――『ソラリス』はど
う伝わったのか」で「第7回日本SF評論賞選考委員特別賞」を受賞な
さいました。また「東京シュプール」(非SF)で第13回長塚節文学
賞の優秀賞、「ものみな憩える」で第2回創元SF短編賞の堀晃賞を受
賞されています。今まで実作者の立場から評論を書ける人がいなかっ
たので、大きな戦力の獲得と言えるでしょう。
 評論賞の受賞作は〈SFマガジン〉2012年6月号に掲載されます。
また、「ものみな憩える」は『原色の想像力2』(創元SF文庫)に収録
されます。
 最初のSF体験は、小学生時代に読んだ小学館の学習図鑑『宇宙旅
行』と『未来の世界』で、さらに食い入るように「少年サンデー」や
「少年マガジン」の巻頭グラビアページや「宇宙家族ロビンソン」を観
ていたそうです。
 このようにビジュアルの方からSFに接近していらっしゃった忍澤さ
んは、エンタメ系もお好きとのことで、今回の佐々木譲さんの作品はほ
ぼ読破されているとか。 新たな書き手による「北海道SF大全」を、
どうぞお楽しみ下さい。(宮野由梨香)
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 近年、警察小説の書き手として注目を集めている佐々木譲だが、実際
の彼のフィールドはもっと雄大なものだ。

 デビュー小説はいわゆる青春小説だったが、すぐにサスペンス物も得
意であることを示した。やがて企業物を経て、第2次大戦を舞台にした
重厚な物語で、本来の力量を明らかにする。それは幕末3部作や、戦国
時代、鎌倉期の物語へと引き継がれ、そこから警察小説というジャンル
の一翼を担うようになったのである。しかしこう簡単に紹介してしまう
と、ほかの数多くの作品から、異議を申し立てられることだろう。

 新たな読者がかつての作品を読み返すと、その作品群は何人かの書
き手によって成り立っているのではないかと思ってしまうかもしれな
いが古くからの読み手は、ほぼすべての作品の底に流れている、作家
の価値観に出会うためにその本を開くのである。彼らには一人の書き
手しかそこにいないことは自明なのだ。

 さらに誤解を恐れずにいえば、佐々木譲は日本の作家であるより前
に、まず北海道の作家である。30年ほどのキャリアの中で、60冊
以上の小説やルポルタージュを上梓していて、その相当数が北海道を
舞台にしているからである。

 すべてを列記するわけにはいかないが、初期のバイク小説の『振り返
れば地平線』(1982年)、『いつか風が見ていた』(1985年)、サスペンス
の『夜を急ぐ者よ』(1986年)『犬どもの栄光』(1987年)、さらに円熟
の味わいを深めて、日本推理作家協会賞や日本冒険小説協会大賞、
山本周五郎賞を受賞した『エトロフ発緊急電』(1989年)や『五稜郭残党
伝』(1991年)、西部劇の醍醐味を味わえる『雪よ、荒野よ』(1994年)
や『帰らざる荒野』(2003年)、『うたう警官』(2004年)から連なる
道警シリーズ、そして生まれ故郷の夕張をモチーフとしたと考えられる
『廃墟に乞う』(2009年)や『カウントダウン』(2010年)などが挙げられ
る。

 その数は舞台の一部が北海道である作品も含めるとおよそ30作に及
び、しかもその半分以上が北海道だけを舞台としているのだ。これが北
海道の作家、といった所以なのである。

 それは小説の舞台が単に北海道というのではなく、その地域性、歴史
性、そして特殊性が物語の重要な鍵となることが多い。例えば、それは
厳しい寒冷の地である地域性、元来アイヌの土地であった歴史性、開拓
地として発展してきた特殊性などである。
 さらに傾向として存在するのが、物語の展開の中で、登場人物たちが
北海道を目指すという点だ。

 『エトロフ発緊急電』は主人公が任務を果たすために北海道へ向かう。
『北帰行』(2010年)は追手から逃れる地が北海道である。さらに『武
揚伝』(2001年)では新しい政府の場としての北海道を構想する。
 彼らにとって北海道とは、今いる場所とは異なる可能性に満ちた地で
あり、あるいは自分を否定する体制の及ばない場所であり、または見知
らぬ自分と出会うところなのである。
 決してユートピアや桃源郷といった安寧な場所ではないが、いわば最
後に残されたもう一つの機会がそこで待ち受けているのだ。これは一人
小説家の夢想ではない。歴史的にも彼の地はそういった役割をはたして
きたといえるだろう。

 佐々木譲は1950年3月、夕張に生まれる。彼自身がほんとうの出身
地を知ったのは比較的最近のことであり、著書の略歴には札幌の出身
と記されていたことも多い。それは戸籍の手続きで生じた間違いであ
ったが、このことによって彼は夕張への関心を高めることとなる。よ
って彼の戸籍上の出身地は札幌のままである。

 以降、この日本で最初に財政破綻した市として全国的に注目された
夕張市に寄り添うように、新聞社の特派として現地に赴き、レポート
を寄せルポを書き、小説の舞台としてきた。その一部は『わが夕張 
わがエトロフ』(2008年)というルポ・エッセイ集にまとめられ
ている。また創作の分野でも、先ほど紹介したように、『カウントダ
ウン』では財政破綻した街の選挙の様子を描き、直木賞受賞作の連作
短編集『廃墟に乞う』では、その表題作として、夕張をモデルとした
架空の街を登場させている。

 彼が実際に育ったのは札幌である。高校卒業後はいくつかの職に就
き、74年から78年は札幌の広告代理店で働き、78年から81年までは、
東京の自動車メーカーの販売促進部に勤務している。
 この間の79年に「鉄騎兵、跳んだ」で、オール読み物新人賞を受賞
し、84年に独立する。

 この年までに、『鉄騎兵、跳んだ』(1982年)、『振り返れば地平線』
(同)、『あこがれは上海クルーズ』(1984年)、『死の色の封印』(同)、
『真夜中の遠い彼方』(同)、『そばにいつもエンジェル』(同)と、6作
もの単行本を発行しているが、そのうち4作は本格的なデビュー年であ
る84年に刊行されている。これら6作で北海道だけを舞台にしているの
が2冊、一部にそれを含むのが1冊である。この「北海道頻度」は長年
あまり変わっていなかったが、最近は北海道警察を舞台にした小説シリ
ーズなどによって増える傾向にある。

 デビュー年以後の作品は、『いつか風が見ていた』、『夜を急ぐ者よ』、
そして今回の題材である『白い殺戮者』(1986年)へと続く。
 この『白い殺戮者』は作者が36歳のときの書き下ろし小説で、その表
紙には「超自然パニック」とある。以下、物語を概観してみることにしよ
う。

 ライターである主人公の大坪は、広告代理店の友人から北海道にある
北士別町の歴史を書いてみないかと誘われる。100周年を迎えるこの町
ではさまざまなイベントが企画されて、彼が頼まれた町史の編纂もその
一環だという。大坪はそれを快諾し、北海道へと向かう。つまりこれも
また北に向かう小説である。主人公の大坪にとってもこれが生き残りを
掛けてのラストチャンスだった。

 彼は町に向かう列車の中で美津子と知り合う。彼女はかつて東京の百
貨店に勤めていたが、町長が発案した企画会社の設立に参画したのだった。

 前日、この町では男性が凍死する事件が起こっていた。北士別は北海
道の中でも寒さの厳しい町だが、現地の警官はその死因に疑いの眼を向け
る。
 大坪はその町に着いて早々飲み屋の店員の祐子と一夜を過ごす。

 翌日、吹雪の中を歩いていた中学生を車から見かけたが、二人は関係
が発覚するのを恐れて、彼を相乗りさせなかった。後にその中学生が凍
死したことがわかった。さらに大坪が取材をした直後、一人暮らしの老
人も凍死する。続けざまに奇妙な凍死事件がこの北士別町を襲う。

 大坪はこの一連の出来事に関心を持ち取材を進めるが、彼が女を同伴
していた時に少年を救わなかったことが噂となっていて、除雪作業員の
久保田や皆川からは批判的な態度を取られる。

 やがて再来した寒さの中で、その女店員や牧場の夫婦が命を落とす。
晴れ間を挟んで、猛烈な寒さが山からゆっくりその勢力範囲を拡大させ
ている。町長はこの寒さを町の宣伝材料にするために、テレビのバラエ
ティ番組の制作を許す。そのスタッフたちにも危機が迫っていた。

 大坪と美津子は彼らを救うために撮影現場へと向かう。しかしそこに
はいくつもの凍死死体が転がっていただけだった。やがてその二人にも
恐怖が近づいてくる。彼らを助けたのは、大坪を疎んじていた久保田だ。
彼は消防車の放水でそれを撃退していく。その水は凍らないように温め
られていたのだった。さらにガソリンを撒いて火をつける。激しく燃え
る炎と吹雪は拮抗するが、やがて女の悲鳴のような音を立てて消えてい
った。

 まだデビューして間もないために、後年の作品のような重厚さはない。
いくつか提示されている伏線も、その意味がほのめかされるだけで終わ
ってしまうところもある。

 しかしそれでも、超常的現象を前にした人間の迷いや思惑を描き切っ
ているといえるだろう。

 物語の核となるのは、想像を絶する寒さが、まるで生き物のように動
き回ることだ。それが主人公の周辺で起こるが、ただの凍死事故として
処理されてしまう。一見、この異常な現象と日常の寒さと間に明確な境
が存在してはいない。逆をいえばこの物語の舞台として、かなりの寒冷
地であることが前提となる。そしてその日常性をまさに隠れ蓑にするよ
うに異常現象は繰り返しこの町を襲いにやってくるのである。

 当たり前の寒さと人を殺す異常な寒さ、日本でこの二つが同時に存在
する場所といえば北海道ということになる。
 寒さだけでいうと、内地の豪雪地帯もその候補に挙げることができる
かもしれない。しかし物語の展開上、近年まで自然が広がっていた場所
であること、さらにアイヌの人々の土地や自然に対する感覚を表現する
ことから、舞台は北海道以外ありえなかった。

 この小説のSF性は、北海道をして成り立っているといってもいいだ
ろう。

 寒さが当たり前の日常は、この現象を偶発的な凍死だと理解させる。
そうすることによってその行政機構は維持させる。書き手はここに寒さ
と異常現象の境を表現すると同時に、現地の人と来訪者との境を描いて
いくことなる。

 この二つの境、人智の及ぶ際と未知なる向こう側との「境」、そして
そこに依拠していない異郷人の信念と土地に縛られた現地民の心情の
「境」こそが、この小説の主題といえるかもしれない。

 後者の仲介役となるはずだったのが、東京出身の美津子だ。大坪の異
常現象の解釈に最初のうち美津子はかなり懐疑的だった。その気持ち
がゆっくりと溶けていくことで、物語は終息に向かうと思われた。しか
し、その二人はその役割を演じることはできなかった。

 大坪は事実関係を解明していくが、それによって逆に地元の人との軋
轢が生まれていく。彼の行動が町史執筆の枠に留まっていれば、看過で
きた町長は結局、彼を排斥するために仕事を奪うことを決断する。しか
しそれは大坪が事件の真相を掴んだためではなく、別の犯罪を明らかに
しそうだったからだ。

 そして最後に躍り出るのは、物語では卑しい人間として描かれた久保
田だった。この久保田のクライマックスでの活躍は、読者の読みを見事
に裏切ってくれる。そこにこそ作者の矜持が隠されていたのだ。

 物語には、いくつかの仕掛けがある。
 冒頭では本編とは一見何の関係もない<オンネベツの血の祝言>と
いわれる事件が描かれ、しばらく後にその内容が説明される。アイヌの
男と地元の有力者の娘の逃避行が、やがて惨劇を生む事件の現場は、
物語の背景として控えている熊渡という森である。かつて集落があっ
たその場所は、現在は放射線廃棄物処理施設の建設予定地になってい
る。

 現地に向かう主人公を乗せた列車は大雪で立往生する。その周囲が
まったく見えないことは、彼は異界に入っていくことを象徴している。

 飲み屋で久保田が語る「アイヌ・ライケ・ウパシ」=「人を殺す雪」
というアイヌの民話もこの物語を解く鍵となっている。自然を破壊する
民を懲らしめるために、天上の神々は悪い雪の神を地上に降ろした。民
は次々と凍死し、やがて自らの行いを悔い改めたが、雪の神は殺戮をや
めない。天上の神々はそれを見て春の風を起こし、雪の神を退治したと
いう。この話は、『おれの二風谷』萱野茂(すずさわ書店)で、紹介さ
れている。

 さらに低温度の研究員は、漁船の中で船員が作業中の姿勢で凍死し
ていたセントヘレナ号事件、村が寒波で全滅したウラノフ村、そして
一定の条件下で雪が原始生命体のように増殖するというスタンバーク
博士の報告といった類例を報告する。

 また最初の凍死の犠牲者と暴力団関係者の死との関係、それに放射
線廃棄物処理場の誘致に対する反対運動と、町長の動きは推理サスペ
ンスの側面を持つといえるだろう。

 そして後半部分では久保田の独白によって、彼が<血の祝言>事件
の当事者の子どもではないかと推測できる。

 こういった仕掛けを読み解くことで、物語は一つの方向に向かって速
い展開を見せる。廃棄物処理場という自然破壊の現場から「人を殺す
雪」が現れ、まさに人を殺していく。関係者はただの凍死だとしか理解しよ
うとしない。しかしヨソ者である大坪は東京出身である美津子とともに
その実態を明らかにするために記録を取ろうとする。そんな彼らを容赦
なく「人を殺す雪」が襲う。それを撃退するのが、アイヌの血を受け継
いでいるはずの久保田だった。

 作者は小説の登場人物に自身の職能を働かせることで、物語を成り立
たせることが多い。この『白い殺戮者』の大坪も、ライター本来の嗅覚
が、彼を事態に深く関与させていく。警察官の永瀬は自分の職務に忠実
でありながら、その権限を活用して事件を究明しようとする。そしてま
た久保田は自衛官であった才覚を持って事態に対している、と見せかけ
て、実はまったく違う感覚によって、恐怖に相対しているのだ。それは
彼が「アイヌ・ライケ・ウパシ」という言葉を知っていたことで明らか
だろう。

 このように見てくると、この小説はその後の佐々木作品のショーケース
的な意味合いを持っていることがわかる。放射性廃棄物の問題はのちに
『ネプチューンの迷宮』によって、より深く描かれている。駐在所の警官
の物語は、『制服捜査』に受け継がれ、さらに雪の恐怖という要素を加え
て『暴雪圏』に結実する。そしてアイヌの人々は、その後の北海道を舞台
にした歴史物には欠かせない存在となっている。

 しかし、この作品は作者自身のホームページの作品紹介にはラインナ
ップされていない。作者が直木賞を受賞したことを契機に多くの著作が
再刊されたが、それに含まれることはなかった。しかし作家性を知る上
では貴重な作品であることに間違いない。


 作者は前述したように夕張の出身である。自身の記憶はほとんどないが、
両親や親戚から夕張の話を聞かされて育ったという。

 ここで思い出すのは、NASAの技術者だったホーマー・ヒッカム・ジ
ュニアの『ロケットボーイズ』である。
 ここでは炭鉱の町で育ったヒッカムの少年時代が、仲間たちと自作ロケ
ットを打ち上げる日々を中心に描かれている。佐々木譲には、ヒッカムの
ような炭鉱の町での実生活はないが両親や親戚から伝えられた話が、ま
さに自然との境で働く男たちの物語が自分の記憶のように浮かび上がる
のかもしれない。

 彼は『白い殺戮者』を書いてから約20年後の2005年に、宇宙作家
クラブに加入している。また種子島宇宙センターの取材を敢行し、「サン
デー毎日」(2005年3月22日号)に、H2Aロケット7号機の打ち上げの
様子をレポートしている。その中で彼は、少年時代の1961年に北海道に
やって来たガガーリンとの出会いを語り、自分が隠れロケット少年であ
ったと述べている。そして記事の筆者紹介の欄の最後には、「宇宙開発
を題材にした小説を、近々書き下ろし、毎日新聞社から刊行する。」
とある。事実その頃の彼のブログには、「ガガーリンX」という仮タイト
ルの原稿の進捗状況が報告されていた。その原稿が公になることはない。

 しかし、私は想像する。彼はすでにSFに類する小説を書いていたので
はなかったかと。例えば彼の会社勤めの体験が反映されたであろう『疾
駆する夢』(2002年)。この冒頭は、近未来に日本の自動車メーカーが本
社を外国に移す場面が描かれている。その未来は雑誌連載の中で追い
抜かれてしまい、連載終了時にはそれは2年前の出来事となっている。

 この小説は一瞬だけ近未来を映し出すと、すぐに第二次大戦直後に
戻っている。そこから歴史を遡るわけだが、登場する自動車メーカー
はすべて架空である。ここにいわば歴史改変SFの仕組みを見て取れ
ないだろうか。その魅力の一つは実際の歴史との齟齬である。ありえ
るようであって、ありえない。その近似値の描写力は、読者の現実に
対する認識量と拮抗することで、その魅力を輝かせるのだから。
(忍澤 勉)


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